冬を味わうための別荘
静けさと自然がくれる、本当の豊かさ
日本のクリスマスは、街が光に包まれ、音楽と人の賑わいであふれます。一方、フィンランドの冬はその対極にあります。短い日照時間のもと、雪と静寂に満たされた世界では、人々は“静けさ”そのものを楽しみます。焚き火を囲み、キャンドルの灯りの中で心を整えるフィンランドの人々は、静かだからこそ、心の中が豊かになると考えます。そして、冬は“耐える”ではなく、“味わう”時間として過ごすのです。フィンランドの冬は、自然と人の距離がぐっと近づきます。今回ご紹介するのは、そんな“穏やかな冬時間”を体現する一家の別荘「ヴィラ・アイブム(Villa Aibmu)」です。
この家の持ち主は、トニさんとエヴァ・マリアさん夫妻。二人は、幼い子供たちと長年休暇を過ごしてきたユッラス(Ylläs)で別荘を建て替えました。ユッラスはフィンランド最大のスキーリゾートであり、夏には国内最大のバイクパークにもなる自然豊かな地域。別荘のすぐそばにはクロスカントリースキーやマウンテンバイクのコースがあり、スキーで丘を下って別荘まで帰ることもできます。
設計のこだわりは「自然との一体感」。木々の向こうに広がる山並みを望む大きな窓から、たっぷりの自然光を取り込み、屋外と室内がやさしくつながる空間を演出しています。窓辺のラウンジは、家族みんなのお気に入り。朝はコーヒー片手に景色を眺め、夜は薪ストーブの炎を見ながら語らう──そんな時間が流れています。“Aibmu”とは、北サーミ語で“空気”や“気配”を意味します。静けさと自然の息づかいを感じるこの家に、まさにふさわしい名。ホンカならではの精密なログ構造が、断熱性と快適さを両立。地熱エネルギーとスマートホーム制御が、無駄のないエネルギー循環を生み出し、安心して過ごせる環境を支えています。こうした先進的な設備は、サステナブルで自然と調和した暮らしを実現する重要な要素となっています。
地下にはスキーやスノーモービルを保管できるスペースも備え、外で遊んだ後は濡れた服を乾かしてから、あたたかな室内へ。自然とともに暮らす知恵が、細部の設計にまで息づいています。静けさの中で、家族と語らうひととき。 雪に包まれたヴィラ・アイブムの時間は、フィンランドの冬が教えてくれる“心の贅沢”そのものです。本当の豊かさは、物の多さではなく、静かに大切なものと向き合うひとときに宿るのかもしれません。
「ヴィラ・アイブム(Villa Aibmu)」動画でもご覧ください。

橋本朝子
フィンランド在住。法政大学建築学科卒業。建築設計事務所、造園設計施工会社勤務を経て、現在はフィンランドで住宅設計を手掛ける。設計のテーマは、「毎日の生活がより楽しくなる空間づくり。」住まいは築50年以上の住宅。インテリア、ガーデンともにリノベーションを重ねて家族と住む。
